そもそも男を受け入れることに慣れていない上に、自分から積極的に動くのは初めてで、サイトーは感覚を掴み損ねていた。
 とにかくパズのモノが抜けないように気遣いながら腰を動かす。その行為は苦痛しか生まず、快楽には程遠かった。
 痛みで嫌な汗が浮かび、顎を伝ってパズの胸の上に落ちる。
 そんなサイトーを眺めていたパズは器用に灰皿を手繰り寄せ、吸っていた煙草をもみ消した。
 手を伸ばして、サイトーの腰を掴む。
「おい!」
「お前、場所が分かってねぇだろう」
 サイトーの腰を固定して、内部を抉るように突き上げる。
「うあっ!」
 電流のような快感がサイトーの身体を駆け上がった。その場所を何度も擦られ、その度に声を上げる。
「ここだ。分かるか?」
 場所を教え込むように、サイトーの腰を導く。しばらくして手を放すと、サイトーは自ら腰を使い始めた。
「は…っ! あ…!」
 自分の感じるポイントにパズのモノを擦り付ける。痛みはいつしか引いていき、それだけを感じるようになってきた。
 行為に夢中になっているサイトーを、パズは目を細めて眺める。
 自分がイくことよりも、サイトーが良さそうにしているのが心地良かった。
「ぅあぁっ!」
 絞るような声を上げて、サイトーが身体を硬直させる。同時にパズのモノも締め上げられた。
「…ぅっ!」
 イきそうになるのを何とか留まる。
「はぁ…っ! あ………」
 大きく息を吐いたサイトーは、パズの上に座り込んだまま、パズを見下ろした。
「…イけたか?」
「まだだ」
「くそ…!」
 サイトーは舌打ちすると、再び腰を浮かせる。
「待て」
 パズは腰を掴んで、その動きを止めさせた。
「それ以上は腰にくるぞ」
「お前がやらせてるんだろうが!」
「だから今度は俺がやる」
 腰を掴んだまま軽く突き上げる。
「あぁっ!」
 そのままゆったりとサイトーの身体を揺すり始めた。
 自分で腰を使っていたときと違う、確実な快楽がサイトーの腕の力を奪い、上体を支えられなくなった。パズの身体の上に覆いかぶさるように倒れこむ。
 パズの手は腰から尻へを滑り、繋がっているそこを指先で押し開いた。
 その場所を穿ったモノが淫猥な水音を立てて出入りする。
 サイトーはパズの首筋に顔を埋めたまま声を上げ続けていた。パズの身体の上で身体を小刻みに痙攣させる。二人の身体に挟まれたサイトーのモノから溢れた蜜が、二人の腹を汚した。
「…パズっ! も…っ!」
「イけ…サイトー」
「あぁぁぁっ!」
 三度目の絶頂を迎えたサイトーに締め上げられて、パズもサイトーの中で達した。
 弛緩したサイトーの体重がパズの身体の上に圧し掛かる。しかし、パズはそれを重いとは思わなかった。背中に手を回し、激しく上下する背中をゆっくりと撫でる。
「…サイトー。抜くぞ?」
「うぁ…っ!」
 内部から異物が抜け落ちる感覚に触発され、サイトーの萎えたモノから白濁した粘液が流れ出る。それはパズの腹を汚し、わき腹を伝ってシーツに染みを作った。
「悪ぃ…」
「気にするな。それより起きれるか?」
「あぁ」
 サイトーは上体を起こすと、パズの上から退いた。
「シャワー浴びて来い」
「あぁ」
 幾分か辛そうにしながら、サイトーは床に落ちていたバスタオルを腰に巻き、バスルームへと歩いていった。



 パズがシーツを変え終わった頃、サイトーが戻ってきた。顔を隠すように、タオルをすっぽりと被っている。
「俺もシャワーを浴びてくる。戻ってくるまで待たなくていい。適当に帰れ。セキュリティは自動で掛かる」
「あぁ」
 タオルの下で煙草に火を点けたサイトーを横目で眺めて、パズもバスルームに向かう。
 パズが寝室に戻ってくると、サイトーはすでに消えていた。
 ベッドサイドに置かれた灰皿には、サイトーの吸殻どころか、パズの煙草の吸殻もない。
 キッチンに向かうと、水で湿らせたパズの煙草の吸殻がゴミ箱に捨てられていた。
 自分の吸殻は携帯灰皿に入れて持ち帰ったのだろう。吸い口からDNAデータを抜かれないための用心だ。
 さっきまで身体を重ねていた男の痕跡は消されていた。
 サイトーらしいと、パズは思う。
 部屋に痕跡はなくとも、身体には、そしてゴーストには痕跡が残る。その身体が生身ならば、なおのこと深く。
 ネオンライトが浮かぶ窓の外を眺めながら、煙草に火を点ける。
≪サイトー≫
 返信がないものと思っていた電通は、思いの他早く返ってきた。
≪何だ?≫
 返事が帰ってくるとは思ってみなかったので、その後の台詞は考えていない。とっさに思いついた台詞をそのまま電通にのせてみた。
≪おやすみ≫
≪………あぁ。おやすみ≫
 次に会うのは、多分一週間後。
 その時に見せる顔はきっと色んなものを隠したポーカーフェイス。
 それを思うと何だか可笑しくて、パズは愉しそうに小さく笑った。



Fin







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