「何をしてやがる」
 その声に重くて仕方がない瞼を持ち上げると、細くて鋭い目がサイトーを見下ろしていた。
「…パズ…」
「夢の中でまでお昼寝か? いくら寝不足だからって、それはねぇだろ」
 やっと見つけ出したサイトーは、泉の中に下半身を浸した状態で眠り込んでいた。そんなサイトーの周りを小さなピンク色の光が飛び交っている。近づいて見てみると、それは透明な羽根をもった小さな生き物だった。
(これが『妖精』か)
 ここがウイルス・プログラムの中だと悟り、パズは忌々しげに舌打ちした。こんな所であまりに暢気で無防備な姿で寝ているサイトーに腹が立ってくる。
「起きろ。帰るぞ」
「あ、あぁ…」
 身体を起こそうと腕に力を込めるが、まるで入らない。身体の中に泥が詰まっているみたいで、重くて持ち上がらない。
「…動けねぇのか?」
 返事を返すのも億劫で、サイトーは黙って頷いた。パズはサイトーの周りからピンク色の光を追い払い、脇の下に腕を入れると、とりあえずサイトーの身体を泉から引きずり出した。
「サイトー。落ちてる間はここにいたのか?」
「落ちてる間? 何のことだ?」
(ここがヴァーチャルだって意識はねぇ…か)
 サイトーが意識を失っている間の記憶は何もない。夢を見ている気配さえない。そういう内容の報告が上がってきている。恐らくウイルスによって記憶を抹消されているのだろう。
 そうだとすると長居はますます危険だ。しかし抜け出し方が分からない。それを知っているのは一人だけ。
「サイトー。ここからの脱出方法は?」
「…脱出?」
 辛うじて起きているサイトーの思考能力は酷く低下しているようで、パズの質問にまともに答えることができない。
「いい加減目を覚ませ、サイトー!」
「っ…!」
 平手を飛ばしてみたが、顔をしかめただけで覚醒する気配はない。パズは舌打ちすると、泉に浸かって濡れているサイトーの衣服を剥がし始めた。
 サイトーには抵抗する力もなく、素肌をむき出しにされていく。
 パズはサイトーの両足を抱えると、取り出した己自身をサイトーの内部に一気に埋め込んだ。
「ぅあ…っ!」
 高圧電流に撃たれたような衝撃が、サイトーの背筋を駆け上がり電脳を揺さぶった。それは一度だけでは済まず、何度も叩きつけられる。
「パズ! パズ…っ!」
 痛みはない。純化した快楽だけが電脳にビシビシと伝わってくる。肉体を触媒としない、電脳セックスならではの擬似信号。慣らしもなく、いきなり挿入されても苦痛を感じないのはそのためだ。
 しかし、ここがヴァーチャルだと気づけないサイトーにはこの感覚は強すぎた。
「や、やめ、ろ…っ! 壊れる…!」
「壊れちまえ」
「うあっ! あぁぁぁっ!」
 サイトーは宙に手を伸ばすと、一際大きなピンク色の光を掴み、その手で握りつぶした。



  



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