パズに首筋を舐められる感覚はまるでナイフを突きつけられているようで。背筋がぞくりとする。
「腰…浮かせろ」
 言われたとおりにすると、濡れた皮パンツを下着ごと剥ぎ取られた。
 一糸纏わぬ姿でソファに座るサイトーにパズが覆いかぶさる。濡れた身体は冷え切っていて、素肌を這うパズの舌が火傷しそうなほど熱く感じた。
「…ん…!」
 胸を伝って下りてきた唇が、サイトーの胸の飾りに触れる。
 身体を洗うとき以外触れることのないその場所は、パズによって新たな感覚を生み出す場所に書き換えられていた。パズの舌先と指先がそこを転がすたびに、サイトーの身体に電流が走る。
 サイトーの胸の辺りで小さな失笑が漏れ聞こえ、サイトーは思わずムッとした。
「何が可笑しい?」
「お前の反応」
「! …っ!」
 サイトーはプライドが高い男だ。そんな言葉で煽れば、サイトーが声を押し殺そうとすることなんて当に分かっている。わざと煽って追いたて陥落させる。それこそがパズの嗜虐心を煽ることに何故気がつかないのか。
「ふ………うっ………!」
 ポーカーフェイスの下には、実は余裕なんてない。それに気がついたのは何度目の夜だっただろうか。サイトーはいつもギリギリのところで堪えている。
 独りで耐えずに手を伸ばしてくれればと、何度も思う。そうしないのがサイトーという男なのだと分かっているのだが、パズにはそれがもどかしい。だからこそ、サイトーを抱く時は容赦しなかった。
 勃ち上がりかけているサイトーのものを軽く握ると、親指で弧を描くように先端を撫でた。
「うぁ! あっ!」
 声とともにサイトーの身体が大きく跳ねる。それに構わず撫で続けると、サイトーは身体を痙攣させながら、パズの肩を掴んだ。
「パズ…! やめ…!」
「…もっと、だろ?」
 暴れる足を肘で押さえつけて、愛撫する手は止めない。パズの肩に食い込む指の力が一層強くなった。
「俺の肩を壊す気か? サイトー」
 そう言うと、手の力が少しだけ抜けた。
「イイコだ」
 パズはにやりと哂うとサイトーの前に跪き、それを咥えた。
「おいっ! パズ!」
 慌てて引き剥がそうとするが既に遅く、自身を深く咥え込まれてしまった。
「あ…あぁっ!」
 ドクドクと脈打ちながら、血と全神経がその場所に集中する。冷え切っていた身体は嘘のように熱くなり、全身に汗が滲んできた。
「あ、あ、あ…!」
 パズの動きにあわせて声が漏れるのを止めることができない。思い出したようにパズの指先がサイトーの胸の飾りを弾き、サイトーはそれにも敏感に反応した。
「うあ…あぁ…くっ!」
 奥歯を噛み締めて、迫り来る絶頂を耐える。すると絶頂寸前でパズの唇が離れた。
「あ………何で………?」
 イかせてくれない。
 サイトーを見上げるパズと目が合い、その言葉を寸でのところで飲み込んだ。
「イきたかったか?」
「………………………………」
 ニヤニヤと哂う顔が非常にムカついたが、自身をゆるゆると扱かれているので下手に動きが取れない。
「サイトー。一応聞いておく」
「………何だ?」
「ローションはあるか?」
「ねぇ」
「サラダ油は?」
「あると思うのか?」
「じゃあ仕方がない。ソファに四つん這いになって、ケツをこっちに向けろ」
「あ?!」
「慣らさないと裂けるぞ」
「何をするつもりだ?」
「舐めて解す」
 あっさりと言ってのけたパズの言葉に、サイトーは絶句した。
「な…舐めるって………お前。俺のケツの穴をか?」
「何だ? 足も舐めて欲しいのか?」
「んな訳あるかっ! 大体、お前、プライドってもんがねぇのか?!」
 サイトーの言葉は怒声に近かったが、パズは飄々とした態度を崩さず、サイトーの前に跪いたままサイトーを見上げている。
「プライド? そんなものは今は関係ねぇだろうが」
「ある!」
「何故?」
「何故って………お前は何とも思わないのかよ?!」
「何が?」
「何がって………!」
 直視し続けるパズの視線に耐え切れず、サイトーはそっぽを向いた。
≪そうやって膝を曲げて、俺のイチモツを舐めてることとか、だよ≫
 口に出すのが憚れたのか、サイトーは電通で送ってきた。
「何故?」
「何故って…パズ…」
「気持ちよくないのか?」
「…それは」
「どっちだ?」
≪…悪くない…≫
「ならいい。お前がいいならそれでいい」
 やはりあっさりと答えたパズに、サイトーは今度こそ言葉を続けることができなかった。
「お前の前に跪き、お前のモノを舐めることを、俺は屈辱だとは思っていない。お前が感じるなら、それでいい」
「………………………………………」
「逆に聞く。この行為はお前にとって屈辱か、サイトー?」
「それは………」
「違うだろ? 違うはずだ。お前は受けた屈辱を甘受しない。この行為に屈辱を感じてるなら、俺の脳殻には今頃風穴が開いている。お前はそういう男だ」
 パズは自分の眉間を指先で叩くと、ニッと笑った。
「サイトー。お前が感じている感情の正体を教えてやろうか?」
「…何のことだ?」
「お前が感じてるのはな。屈辱じゃなく恥辱だよ」
「!」
「要は恥ずかしいんだろ? 俺に全身を舐められるのが」
「あ、あ、あ…当たり前だろうが!」
「そう、当たり前なんだ。セックスってのは理性をかなぐり捨てて、本能だけの獣になってやるモンだ。理性を持ってる生き物ならば恥ずかしくて当たり前なんだよ」
「な………」
「だからな、サイトー。ポーカーフェイスで隠してないで、素直に恥ずかしがっておけ」
「っ!」
「分かったら、後ろ向け」
 サイトーは顔を真っ赤に染めてパズを睨みつけていたが、やがてゆっくりと体勢を変え始めた。ソファの背もたれを抱え込むように上半身を預け、膝を立てて尻をパズの方に向ける。



  



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