目を開けると、白い天井が見えた。
 隣で身を起こす気配を感じ、サイトーもすばやく身を起こす。そして、そのまま右手で相手を殴りつけた。
「…ってぇ…!」
 殴られたパズは顔をしかめて、唇の端を指先でさすった。口の中を切ったのか、その指先に赤いものがついている。
「…最低だな。テメェは…!」
 サイトーは怒りのまま、軽蔑するように吐き捨てた。
「随分だな。明日の任務に支障が出ないように、今夜は電脳ファックにしてやったんだろ」
「だからって、何だこのシチュエーションは?!」
 完全に激怒し、今度は左手で殴りつけると、パズはサイトーの拳を寸での所で受け止め、そのまま両手の手首を掴み、サイトーの身体をベッドに押し倒した。
「物足りないなら、このまま抱いてやってもいいぞ」
「ざけんな、テメェ!!!」
 サイトーは力の限り暴れるが、義体化率の高いパズに馬乗りされているので、ほとんど身動きが取れない。しかも両手も塞がれている。
 ことの発端は、明日の任務を理由にパズの誘いをサイトーが断ったことから始まった。
 どうしてもと押し切られ、電脳ファックならと誘いに乗ったのが運のつきだった。
 パズが用意したプログラムはあまりに精巧すぎて、サイトーはこれがヴァーチャルであることを、途中からすっかり忘れてしまった。
「サイトー、そんなに怒るなよ」
「これが怒らずにいられるか! 阿呆! ブッ殺す!」
「お前になら、殺されてもいいな」
「望み通り今すぐ殺してやるから、手を離しやがれ!」
「イくところを少佐に見てもらいたかったのか?」
「!!!」
 憤怒で、サイトーの顔が真っ赤に染まる。
 サイトーは出力を厭わず、義体化された左腕を振り回した。しかし、手首をパズに掴まれているため、大した効果はない。
「冗談だ。俺がお前のイイ顔を他の奴に見せる訳ねぇだろ」
「お、ま、え、は…」
 怒りすぎて、言葉も上手く出てこない。
 しかも、有線したままなので、サイトーがどれだけ怒っているか、パズに伝わっているのだ。
 逆に言えば、怒り狂っているサイトーをパズが面白がっていることが、サイトーに伝わってくる。
 怒りを通り越して、サイトーは何だか馬鹿馬鹿しくなってしまった。
 一切の抵抗を止め、身体の力を抜く。
「…パズ。寝るから退け」
 サイトーの感情変化をプラグを通じて感じ取ったパズは、大人しくサイトーの上から退いた。
 サイトーが首の後ろから引き抜いたプラグを回収し、サイトーの身体の上に掛け布団を掛けてやる。
 するとサイトーはパズの手から奪うように布団をもぎ取り、頭まですっぽりと被ってしまった。
「ドアはオート・ロックだから、勝手に出てけ」
 布団の中からくぐもったサイトーの声が聞こえてくる。
「またな」
「二度と来るな」
 パズは軽く肩をすくめると、部屋の照明を落とした。
 ドアを開けて、暗い室内を振り返る。
「おやすみ、サイトー。続きは夢の中で少佐に見てもらえ」
 暗闇の中で、数発の銃声が轟いた。



  



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