サイトーが駐車場に下りると、パズが車に寄りかかり煙草を吸っていた。
 サイトーの姿を認めると煙草を地面に落とし、踏みにじって火を消す。そして黙って助手席のドアを開けた。
 サイトーは車に近づくと、自らの手で後部座席のドアを開けた。
「おい…」
 パズの言葉を片手を上げて制して、サイトーは後部座席にライフル・ケースを安置してドアを閉め、助手席へと乗り込む。
 パズは嘆息するとドアを閉め、運転席に乗り込んだ。
 車の中で二人は口を開かず、サイトーは後ろに流れていく景色をずっと眺めていた。
 やがて車は新浜郊外のマンションの地下駐車場に滑り込んだ。サイトーが車から降りると、駐車場には他に停まっている車は見えない。書類を操作して廃棄寸前の物件をパズが押さえたのだろう。
 パズの後に続き、人気のないマンションの廊下を歩く。錆びの浮いた外階段を上がり、最上階へ。
 角部屋のドアの前に立ち鍵を開けると、パズはドアを大きく開いてサイトーを促した。
 パズの横をすり抜け、玄関に入る。
 ドアが閉まる音に続き、オートロックの電子音が小さくなる。
 しかしサイトーの耳にその音は届かなかった。
「…っ!」
 後ろから肩を掴まれ、叩きつけるように壁に身体を押しつけられる。
 そして、奪うように唇が塞がれた。歯が当り、不快な音が鳴る。
「ふ…ぅ…!」
 苦しげな息が口の端から漏れる。同時に舌を絡め合う濡れた音が響く。
「んふ…」
 名残惜しげに唇を解放すると、パズはサイトーを抱きしめたままその首筋に顔を埋めた。
「…どうした? パズ」
 サイトーの肩に顔を埋めたまま、パズは問いかけに答えようとしない。
「パズ。俺が死ぬとでも思ったのか?」
 その台詞にパズの肩がわずかに跳ねる。
「………お前が」
 やっと聞こえてきた声は妙に弱々しく掠れている。
「お前は…死ぬ訳はないと思っている…」
「…俺は万能じゃない。全身を義体化したところで死なない訳じゃない」
「分かってる。分かってる………だがお前は………」
「死なねぇってか?」
 ふっと鼻で笑うと、サイトーを抱きしめるパズの腕の力が強くなった。
「痛ぇよ」
「! すまん」
 抱きしめる力は弱まったが、その腕を解くつもりはないようだ。
「………俺も死ぬかと思ったよ」
 テロリストが放ったロケット弾はサイトーの間近に着弾した。
 もし、タチコマがロケット弾とサイトーの間に割って入らなければ、サイトーの身体は粉々になっていただろう。
 幸いなことに、爆風に軽く吹き飛ばされ、擦り傷を数ヶ所負っただけで済んだのだ。
「爆発の瞬間、俺の名前を呼んだのはお前か?」
 頭を庇って地面を転がりながら、遠くで自分の名を呼び声を確かに聞いた。
「…違う。俺じゃねぇ。バトーだ」
「…そうか…」
「俺は…声が出なかった」
「情けねぇな」
「あぁ。まったくだ」
 サイトーはパズの背中に腕を回すと、あやすようにポンポンと軽く叩いた。
「俺は死んでねぇぞ。勝手に殺すな」
「あぁ。すまん」
 パズはやっと顔を上げると、サイトーの唇に軽くキスをした。
「怪我は?」
「大したことねぇよ」
「なら…抱いていいか?」
「嫌だ」
「サイトー」
「…とは言わねぇよ」
 サイトーの答えにパズは小さく笑うと、今度は深く唇を塞いだ。



  



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